「まんまる」から「真っ直ぐ」
赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で丸くなっています。出生後、背筋を徐々に伸ばしていきます。
つまり発育・発達とは、「まんまる」から「真っ直ぐ」になる事です!発育を逆方向に引き戻す姿勢には、注意しましょう。
1.生まれてから~「首すわり」まで
(1)授乳について 1)母乳 2)母乳が出ない場合(2)抱っこの仕方 (3)寝かせ方
2. 首すわり~ひとり歩きまで
(1)首すわりの見分け方 (2)抱っこの仕方 (3)寝かせ方
3.離乳食の進め方
(1)離乳食開始の目安(2)離乳前期(3)離乳後期(4)味覚の形成(5)むし歯予防
1. 生まれてから~「首すわり」まで
(1)授乳の仕方 ~きれいな歯並びのために~
1)母乳
母乳育児は、噛む筋肉(咀嚼筋)を鍛え、食べる機能を発達させます。授乳で噛む力や正しい嚥下を身につけることが、その後のお口の発育に重要です。機能が十分発達しないままでの離乳食への移行は、上手く食べられないだけでなく、その後の発達に悪影響を及ぼします。
お母さんの乳首を吸うとき、赤ちゃんは、下顎を前に出し上下運動(噛む動き)をしています。くちびると舌で乳首を取り込み、舌で乳首を上あごに押し付けて搾り出します(舌は、蠕動運動)。決して吸引はしていません。
図は、乳房哺乳児と哺乳瓶哺乳児の哺乳時の咀嚼筋の筋電図です。哺乳瓶哺乳では筋活動が少なく、吸引していることがわかります。吸引では、噛むトレーニングにならないだけでなく、悪い癖が身についてしまいます。
乳房哺育児(図1)と哺乳瓶哺育児(図2)の筋活動の違い
(「子どもの口の未来のために」メディアサイエンス社より)
図1 乳房哺育時児の咀嚼筋の動き(生後4か月の赤ちゃん)
図2 哺乳瓶哺乳児の咀嚼筋の動き(生後4か月の赤ちゃん)
舌の位置は歯列の発育に大きな影響を及ぼします。(正常な舌の位置は口蓋に接触します)乳房哺乳では舌は乳首を介して口蓋に押しつけるように運動するのに対し、吸引型のほ乳瓶哺乳では舌が下顎前歯の舌側に付くようになり(低位舌)、上顎の発育が悪くなります。
2)母乳が出ない場合(哺乳瓶)
咬合型乳首といって哺乳瓶でも母乳を吸うときと同じような筋活動が行える乳首(ビーンスターク ニプル)があります。哺乳瓶での授乳の場合は、咬合型乳首の使用をお勧めします。
「ビーンスターク ニプル」は母乳を飲むときと同じように、舌やあごの筋肉をしっかりと使って飲むことができる構造になっています。赤ちゃんに必要な動作が自然と身につきます。
哺乳時の咬筋活動の違い
A ビーンスターク咬合型乳首使用 B 母乳哺乳 C 従来型の人工乳首使用
上図は、ビーンスターク咬合型乳首が、母乳哺乳と同様の筋活動がある事を示しています。
※咬合型乳首を使う場合は、最初からこの二プルをお使いください。吸引型乳首から咬合型乳首への変更は、困難な場合があります。うまく移行ができない場合は、ご相談ください。
詳しくは http://www.otsuka.co.jp/bst/product/nipple/
授乳時の姿勢
赤ちゃんが、気持ちよく飲める姿勢を探してあげて下さい。縦抱きや脇抱きは、赤ちゃんにとって負担になりやすいので工夫が必要です。首が後屈した姿勢や身体がねじれた姿勢にならないよう注意して下さい。このような姿勢は、浅飲みになり、間違った嚥下癖が定着しやすいので注意して下さい。
両手抱っこが難しい場合は、授乳クッションを利用します。
お母さんの姿勢も大切です。肩や背中がこっていると、血液循環が悪くなり、母乳は出にくくなります。
(2)抱っこの仕方~首がすわるまで~
首がすわるまでは、長時間の縦抱きは、しないで下さい。腹筋や背筋に力が入りすぎて身体が緊張し反りや硬さの原因になります。また頭が後方に反らないように注意し、口を閉じている事(鼻呼吸)を確認してください。この時期の抱き方が悪いと、口呼吸や歯列不正の原因になります。
正しい首(頸椎)の育て方
首は、咀嚼・嚥下の要で、歯並びに大きな影響を及ぼします。
赤ちゃんの首は大切に扱って下さい。頭が後ろに倒れすぎる姿勢は、要注意です。
頭を後ろに落とすと 首の前面、後頭関節に負担がかかります。この部分の筋肉や神経は、哺乳行動とって重要な部分です。頭の落ちた姿勢は、口が開きにくい、舌が動きにくい、嚥下しにくい、すぐにむせるなどの症状が起こります。
(3)寝かせ方
「まんまる」から「真っ直ぐ」へ
赤ちゃんは、お母さんのお腹の中で丸くなっています。出生後、背筋を徐々に伸ばしていきます。つまり発育・発達とは、「まんまる」から「真っ直ぐ」になる事です!発育を逆方向に引き戻す姿勢には、注意しましょう。
布団は、平らなものにして下さい。向き癖が出る場合は、枕などで調整してください。
赤ちゃんの動きには無駄なものはありません。自由な動きを妨げないようにし見守りましょう。また、声掛けや発達に応じて動きを補助する事も大切です。
腹ばい遊びをさせましょう!
注うつぶせ寝ではありません。必ずそばで見守って下さい。
生後1ヶ月になったら、腹ばい遊びをさせ首すわりを促します。(1日合計10分程度)腹ばい遊びは、首の力をつけ、頸椎の前弯を作るのに必要です。また1ヶ月未満の赤ちゃんを仰向けばかりで寝かせていると頭の変形を起こすので、横向きで寝かせる事も必要です。
自分で頭が動かせるまでは、仰向けでの注視、追視遊びをしっかり行う事も「首すわり」を促すのに大切です。
2.首すわり~ひとり歩き までのベビーケア
(1)首すわりの見分け方
1)縦抱きにしても頭が揺れない
2)腹ばい姿勢の時に肘で上半身を支え、頭を身体の正面で上げることができ、左右を見渡す事ができる。
3)手首をもってゆっくり引き起こすと、腰が床についたまま、腕が伸び背中が持ち上がる。45度程度持ち上がったところで頭がついて上がってくる。
(2)抱っこの仕方~首がすわってから~
首がすわると、肩甲骨のあたりまで筋力が発達します。しかし腰を支える筋力までは育っていないので、胸から下はしっかり支えて抱っこします。
(3)寝かせ方
ハイハイができる赤ちゃんの寝かせ方
寝返りで自分の身体を整えるようになります。布団は、真綿のものがちょうど良い弾力と硬さがあるので、赤ちゃんも良く眠ってくれるようです。
ハイハイをたくさんさせて下さい。
ハイハイは、腰椎前弯の形成(腰すわり)に必要な運動です。ハイハイで、腰が強くなり一人で座れるようになります。発達の順番は、ハイハイ⇒1人座りの順となります。ハイハイをしなくても歩くようになりますが、O脚になったり、左右非対称に育つ場合があるので注意して下さい。
ハイハイ⇒1人座りの順番が逆にならないようにしましょう。
1人で座れない時期にセット座位(赤ちゃんが自分で座るのではなく、保育者が座らせた状態)をさせないで下さい。セット座位での子供の骨盤は、寝ているため猫背が定着しやすくなります。筋力がないうちに無理に座らせると首、背中、腰のコリの原因にもなります。目が離せない時などに座らせる場合は、短時間にして下さい。
無理に立たせないで!
また、自分で立てるようになるまでは、立たせるのも最小限にして下さい。
首すわりの後、抱っこ紐を使う場合は、頭を保護するもの(後ろに倒れないもの)を選んでください。また、長時間同じ姿勢にならないよう注意してください。(写真は、ベビービョルン社ベビーキャリア)
頭を支える部分があり良いベビーキャリア
おんぶも同様です。頭が保護され、後傾しないもの(上述)を選んでください。
※おんぶは、1人座りが出来、背筋がしっかりしてから行ってください。首がすわっていない時は、行わないようにしましょう。
3.離乳食の進め方・・・咀嚼の学習期
厚労省の「離乳食の進め方の目安」には、5~6ヶ月から開始となっていますが、明確な根拠はありません。WHOは、生後6ヶ月間は、母乳だけで育てるように勧告しており、7ヶ月目からの開始で遅くありませんし、ゆっくり始めたほうがスムーズです。
離乳食の開始は、月齢だけで決めるのではなく発達段階をみて移行するべきです。
(1) 離乳食開始の目安
① お乳を上手に飲める力がついていること
噛む練習の前に、「飲み込む力」が十分ついている事が必要です。お腹が空いてお乳を飲み始めたら一気に飲み終わり満足している。次まで十分時間が開く。だらだら飲みではない。離乳期にこの生活のリズムがついていることも重要です。
哺乳瓶の場合は、咬合型乳首で200ccを20分以内に常に飲めることが目安になります。
②座った状態が保てること
上半身を保持する力がついてくると、口も動かしやすくなるだけでなく、誤嚥の心配も少なくなります。座れるようになると、手がある程度自由に動くようになっています。
③ 赤ちゃんが食事を欲しがっている事
大人の食べ物に手を出したり、食べ物を見てよだれを流したりするようになります。固形物が、嚥下できる状態になっている目安になります。
(2)離乳前期・・・栄養は、哺乳が主体です。
離乳食で重要なことは、舌を口蓋に圧接し食物を潰す事です。舌の働きは顎だけでなく、頸椎もしっかり発育させます。お子さんの発育をみながら舌で潰せる硬さのものを与えてください。
食べさせるペースは、親の手の空いたときに与えるくらいが良いようです。この時、赤ちゃんに唇を閉じて捕食させる事が重要で、唇の力をつける事につながります。唇を閉じてからスプーンを引くようにしましょう。
(3)離乳後期
身体の発育として、ハイハイができ1人座りができるようになると、離乳完了も間近です。満1歳を目標に、食事だけで栄養が取れるように進めていきます。姿勢が良くなり、口の機能も上がってくるので、窒息や誤嚥はまず起きなくなっています。
咀嚼運動を行うには、いろいろな動きを身につけることが必要です。それにはいろいろな食材が必要になります。口の動かし方は、食材と調理の仕方によって変わるため、いろいろな食材や大きさを経験させることが大切です。
ただし硬いものを食べさせる必要はありません。乳臼歯が生えそろうまでは、舌で潰せる硬さのものでよいでしょう。
咀嚼機能の発達は、哺乳および離乳食期(固形食学習期)の育て方でほぼ決まります。
発達を考えるとき臨界期(感受性期)を抜きに考えることは出来ません。臨界期(感受性期)とは、脳の発達に影響を及ぼす重要な時期の事です。ある機能を獲得するときに適切な刺激が与えられると、適切な神経回路が作られます。これは一生のうちに一度しかありません。咀嚼機能の臨界期(感受性期)は、2~3歳までといわれています。したがって歯並びの良し悪しは、3歳頃までに決まると言って良いかもしれません。
また発達には順番と法則があり、学習時期や順番が、狂うと成長発達に悪影響が出ます。そしてそれを後から取り戻すのは、とても大変です。
赤ちゃんの動作に無駄なものはなく、それぞれが次の動作の準備になります。適切な時期に適切に動く体験をたくさんする事が大切で、ひとつ前の発達は、次の発達のための準備・練習です。発育の芽を摘まないように見守る事も大切です。
(4)味覚の形成・・・子供の3人に1人が、味覚異常
離乳食期は、味覚形成の重要な時期でもあります。母乳(ミルク)以外の味を覚える第一歩が離乳食です。近年、「子供の3人に1人が、味覚異常」との調査があります。私たちが普段「美味しい」と思う感覚は、赤ちゃんの頃から養われていた感覚です。薄味を基本とし、素材そのものの味や匂い、食感などを味わうことで、食材本来の「美味しさ」を伝えていきましょう。
甘いもの好きの野菜嫌い
この時期に甘いものを与えすぎると、強い偏食や味覚異常になる場合があります。甘味は、非常に刺激が強いものです。また受け入れやすい味でもあるので、与えるのは出来るだけ後回しにする方が良いでしょう。
甘いものは、むし歯の原因になるだけでなく、健康な食生活を邪魔するものです。3歳までは、甘いものを遠ざけてなんでも食べる子供を目指しましょう。これが、望ましい味覚形成の秘訣です。
(5)むし歯予防
むし歯予防に関しても1歳半~3歳頃までが大切です。この時期にむし歯菌に感染させないとその後のむし歯予防もスムーズに行えます。
生まれたばかりの赤ちゃんのお口に中には、むし歯菌はいません。しかし歯が生えると周りの人からうつって定着します。善玉菌が多く、悪玉菌(むし歯菌)の少ない良い口腔環境に育てることが重要です。この時期に甘いものをたくさん食べるとむし歯菌が多いお口になります。むし歯予防の点からも甘味の摂取は、できるだけ遅く、少なくすることが重要です。
むし歯予防には、歯質の強化も大切です。フッ素は、歯を強くし、むし歯の罹患率を低下させます。定期的にフッ化物を塗布することをお勧めします。